2012年5月10日木曜日

最新医学社


最新医学社

要旨

最新医学 別冊 新しい診断と治療のABC 47/精神4
摂食障害


第1章 概念・定義
摂食障害の概念と歴史

切池 信夫   大阪市立大学大学院医学研究科神経精神医学 教授

要旨
 摂食障害は,主に神経性食思不振症(anorexia nervosa)と神経性過食症(bulimia nervosa)からなる.ここでは神経性食思不振症以前の時代に精神的原因により少量の食物しか食べず骨と皮までやせていった聖女の断食,奇跡の少女を紹介し,次いで神経性食思不振症や神経性過食症の概念が誕生した歴史的背景と現在に至るまでの経緯を述べる.

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第1章 概念・定義
摂食障害の疫学

中井 義勝  烏丸御池中井クリニック 院長

要旨
 病院を受診した摂食障害患者数推計値はこの20年間に約10倍,5年間で約4倍増加していて,世界でもトップクラスである.とりわけ神経性過食症の増加が著しい.女子学生を対象とした摂食障害の推定発症率は,神経性食思不振症は0.3%,神経性過食症は2.2%,特定不能の摂食障害は12.1%でこの10年間に約3倍増加している.転帰調査の結果,粗死亡率は7%で,回復49%,部分回復9%,摂食障害35%であった.

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第2章 病理・病態
摂食障害の臨床症状

山田  恒   大阪市立大学大学院医学研究科神経精神医学 病院講師

要旨
 摂食障害の臨床症状を,精神症状,行動異常,身体症状の3つに分けて説明する.精神症状として,やせ願望と肥満恐怖,身体像の障害,病識欠如,その他に抑うつ,不安,強迫,失感情症などがみられる.行動異常として,不食や摂食制限,過食などの摂食行動異常と自己誘発性嘔吐,下剤乱用などの排出行動,活動性の変化,問題行動などを認める.身体症状としては,体重減少,月経異常などを生じる.

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第2章 病理・病態
身体合併症と精神合併症(併存症も含む)

瀧本 禎之  東京大学大学院医学系研究科ストレス防御・心身医学

要旨
 摂食障害患者は,その経過中にさまざまな身体的合併症と精神的合併症を呈する.中でも神経性食思不振症においては,低栄養状態によって致死的な身体的合併症を来すこともまれではない.また,高齢者などでみられる通常の飢餓状態と異なる検査所見を示すこともあり,知識がない場合にはその対処に苦慮することもある.また,精神的合併症を有する例も多く,常に精神的合併症に配慮しておく必要がある.本稿では,摂食障害にみられる代表的な合併症について概説する.

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第2章 病理・病態
病因と発症機序

井上 幸紀  大阪市立大学大学院医学研究科神経精神医学 准教授

要旨
 摂食障害の病因については多くの仮説がある.しかし,1つの仮説だけですべてを説明することはできず,多くの要因が関与していると考えられるようになった.現在最も広く受け入れられているのは,文化・社会的要因,心理的要因,生物学的要因などが複雑に相互に関連しあって発症する多次元モデル(multi-dimentional model)である.ここでは個別に説明を行い,その関連についてまとめる.

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医師をお勧めし痛みの軽減とサポート生産



第3章 診 断
診 断

小牧  元   国立精神・神経センター精神保健研究所心身医学研究部 部長

要旨
 体重への過度のこだわりや,自己評価への体重や体形の過剰な影響を背景とした食行動の重篤な障害である.神経性食思不振症(AN),神経性過食症(BN)ならびにその診断基準にあてはまらないものを特定不能の摂食障害(EDNOS)とする.ANは不食あるいはむちゃ食い・排出行為によりやせを維持し,BNはむちゃ食いを繰り返しながらも不適切な代償行為を伴ってやせに至らない.不食型からむちゃ食い・排出型に移行しやすい.

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第3章 診 断
摂食行動異常の評価

永田 利彦  大阪市立大学大学院医学研究科神経精神医学 准教授

要旨
 種々の摂食障害の臨床症状評価の尺度が開発されてきたが,代表的な尺度である半構造化面接のEating Disorder Examination,自己記入式であるEating Attitudes Test,Eating Disorders Inventoryなどの尺度を紹介し,日本語版を紹介した.さらに,摂食に対するとらわれと儀式行為を評価するYale-Brown-Cornell Eating Disorder Scale,主観的な身体の体験などを評価するBody Attitude Testなどを紹介し,評価尺度の限界についても議論した.

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第3章 診 断
検 査 (身体疾患の除外診断と身体合併症)

原   健   福岡徳洲会病院心療内科 医長
松林  直   福岡徳洲会病院心療内科 部長

要旨
 摂食障害の診療では,アメリカ精神科学会が推奨しているような検査計画を,鑑別診断や身体的状態の評価に活用するべきである.頻度の高い重篤な合併症として,QT 時間の延長や電解質異常に基づく致死的な不整脈があり,また脱水,低血糖,ビタミン B1 欠乏,refeeding 症候群にも注意を要する.摂食障害に特徴的な内分泌異常を理解しておくことや,骨密度を測定して骨粗鬆症を予防することも重要である.

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第4章 管理・治療・予防
初診時の対応

切池 信夫  大阪市立大学大学院医学研究科神経精神医学 教授

要旨
 摂食障害患者は,自らやせを望むため自分の病気を否認したり,または自分の意志が弱くて過食や嘔吐を止められないと思い自ら受診しない場合が多い.また,受診しても本症に対する医師の理解が足りなかったり接し方が悪ければ,患者との間に信頼関係は築けず,治療から容易に脱落する.そこでここでは,初診時における患者への接し方,親のみ相談に来た場合,患者が受診に抵抗する場合の接し方などについて説明した.

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第4章 管理・治療・予防
摂食障害の外来治療

高木洲一郎    自由が丘高木クリニック 院長

要旨
 摂食障害は,圧倒的に多くの患者が外来で治療を受けている.表現型こそ摂食障害という形をとっているが,背景にある心理的問題に目を向けることが重要である.関係者は焦らずに,命だけは落とさぬように十分に気をつけながら,患者の自立を長い目で家族と共に見守り支えていきたい.摂食障害は症状や問題が多岐にわたっているため,家族を始め,カウンセラー,栄養士,学校などと連携して治療を進めることが望ましい.

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第4章 管理・治療・予防
内科入院治療


疝痛のための粉ミルク

鈴木(堀田)眞理  政策研究大学院大学保健管理センター 教授
  
要旨
 摂食障害の内科的入院の目的は救命,合併症の治療,栄養療法である.特に神経性食思不振症では,有効な精神療法に導入するためには栄養療法による飢餓症候群の軽減が必要である.しかし,本症では低栄養による胃腸機能障害のために,摂食だけでは困難な場合は経管栄養や経静脈性高カロリー栄養法を効率よく併用して,低体重を迅速に改善すべきである.入院前に患者が主体的に目的と治療方法を決めるように指導し,個々の患者のニーズに対応したオーダーメイド入院が勧められる.

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第4章 管理・治療・予防
摂食障害の入院治療−精神科医の立場から

永田 利彦  大阪市立大学大学院医学研究科神経精神医学 准教授

要旨
 体重回復には緩やかな入院行動療法が適応である.慢性的な自殺願望の危険性に対しては,入院治療よりパーソナリティー障害の継続的な外来治療が適応となる.大うつ病性障害の入院治療では,薬物療法と休息療法の有効性の判断が必要である.物質関連障害は専門治療施設での治療が優先する.最も優先されるのは,このような"見立て"や治療方針をできるだけ早期に,患者,家族に説明し,治療的な構造を作ることである.


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第4章 管理・治療・予防
摂食障害の薬物療法

岡本 百合  広島大学保健管理センター 准教授

要旨
 摂食障害は死亡率が高く,再燃が多いにもかかわらず,薬物療法が十分に発展していないのが現状である.神経性過食症に対するfluoxetine投与が米国食品医薬品局(FDA)で推奨されているが,そのほかについては二重盲検法による治療研究が乏しく,効果的な薬物療法が確立されていない.本稿では,これまでの神経性食思不振症,神経性過食症の薬物療法の臨床報告例,研究報告例の概要を紹介し,問題点と今後の課題についてふれた.

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第4章 管理・治療・予防
個人精神療法

山下 達久   京都府立医科大学大学院医学研究科精神機能病態学 准教授

要旨
 摂食障害の治療においては,食行動異常や低栄養状態などの症状を改善するだけでは不十分であり,根底にあるパーソナリティーの問題を扱っていくことが必要である.したがって,摂食障害の個人精神療法において,精神力動的観点は重要である.本論では,精神力動的観点から摂食障害患者の内面を理解するためのモデルを呈示し,特に治療初期におけるアプローチを中心に個人精神療法の実際について解説した.

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第4章 管理・治療・予防
行動療法

成尾 鉄朗  司誠会野上病院心療内科

要旨
 行動療法というと「行動に大幅に制限をかけ,アメとムチ方式で厳しく制御する単純で非人間的操作術」という誤解を受けがちであるが,行動療法の諸技法が包括的で柔軟に運用されるならば,いまだに有効な治療手段の1つである.特に治療抵抗性の高い神経性食思不振症の患者を対象とする治療では,行動療法の枠組みを上手に使いながら,栄養面,食行動,身体面の改善のみならず,心理・認知面と社会的側面の改善や向上を目指すことが良好な予後を得るには重要である.

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第4章 管理・治療・予防
認知行動療法

中里 道子  千葉大学医学部附属病院精神神経科 講師


母乳乳児の便秘

要旨
 認知行動療法は,認知モデルに基づいた構造化された心理社会療法であり,神経性過食症に対する最も有効な治療としてエビデンスが確立されている.包括的アセスメントによって適応を評価しフォーミュレーションを行い,個々のケースに沿って課題を設定する.症状維持につながる生活様式を変化させるために,認知再構成,行動実験,問題解決思考法などを用いる.プライマリーケアにおいては,認知行動療法セルフヘルプが推奨される.

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第4章 管理・治療・予防
対人関係療法

水島 広子   水島広子こころの健康クリニック(対人関係療法専門)院長

要旨
 対人関係療法(IPT)は,個人療法・グループ療法ともに,摂食障害に対して,認知行動療法と同等の効果を有することが示された唯一の短期精神療法である.症状を対人関係ストレスの指標と考え,症状を直接扱うことなく,症状を維持している対人関係問題を治療焦点とする.対人関係の4つの問題領域から1つか2つを選んで治療焦点とし,コミュニケーション分析などを通して自らの意思の尊重や怒りの適切な表現という課題に特に注目する.

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第4章 管理・治療・予防
家族への接し方と家族療法

中村 伸一  中村心理療法研究室

要旨
 摂食障害への家族療法は数ある精神療法の中でも有効性が実証された方法である.Rootらの神経性過食症の家族分類を敷衍して,摂食障害の家族の3つのタイプを示し,それらに対する家族療法的介入の基本原則を筆者の臨床経験から要約して述べた.

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第4章 管理・治療・予防
摂食障害の集団精神療法

鈴木 健二   鈴木メンタルクリニック 院長

要旨
 摂食障害の中で神経性過食症,あるいは過食に自己誘発嘔吐や下剤乱用などの排出行動を伴うタイプは,慢性化した摂食障害と考えられ,過食や排出行動がアディクション行動になっており,そのタイプに対しては集団療法が適応となる.集団療法は心理教育と集団認知行動療法がある.さらに,親のサポートとしても集団療法的なアプローチが有効と考えられる.そうした集団療法的治療技法の例を紹介し解説を加えた.

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第4章 管理・治療・予防
栄養治療

苅部 正巳   国立国際医療センター心療内科

要旨
 摂食障害患者では,しばしば治療そのものへの本人の同意を得ることさえ困難で,栄養補給を拒否するケースも多い.根気強く治療への動機付けへ導入していくことが必要となる.本稿では,生命の危機的状態にあり,本人の判断力も欠落していると考えざるをえない飢餓状態時と,それに続く栄養補給による体重の回復期に分けて述べ,さらに経口摂取のみでの栄養摂取が可能となってからの食事療法について,摂食障害患者のための専用食の当施設での試みについて触れる.

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第4章 管理・治療・予防
小児の治療

傳田 健三  北海道大学大学院医学研究科精神医学分野 准教授

要旨
 小児の摂食障害の臨床的特徴を述べ,それに基づいた治療的アプローチの指針について解説した.小児の摂食障害の特徴は,神経性食思不振症(AN)が多いことである.したがって,原則として入院のうえ,行動療法的アプローチを行っていく.神経性過食症(BN)の場合は,外来において薬物療法および認知行動療法が行われることが多い.小児における精神療法の問題点,家族へのアプローチの注意点,チーム医療の必要性などについて解説した.

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第4章 管理・治療・予防
無月経の治療


廣瀬 一浩   千葉西総合病院産婦人科 部長

要旨
 女性の性機能は視床下部−下垂体−卵巣ホルモン系により調節されている.摂食障害(ED)患者は高度のるいそうにより,視床下部の機能異常が原因の続発性無月経が生じる.ED の無月経治療の原則は体重回復による月経再来を期することにある.ホルモン療法の適応は,十分の体重回復にもかかわらず月経が再開せず,かつ本人が月経の発来を希望している場合である.低体重時のホルモン療法は禁忌と考え治療にあたるべきである.

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第4章 管理・治療・予防
摂食障害のリハビリテーション

武田  綾  独立行政法人国立病院機構久里浜アルコール症センター

要旨
 摂食障害は,外見の著しいやせや過食嘔吐といった異常食行動に目を奪われがちであるが,内面の心理的問題は深刻であり,ソーシャルスキルの低さも認められる.そのため,食行動の正常化の維持,対人関係障害の軽減と問題解決能力のレベルアップなどを目的としたリハビリテーションが必要である.地域作業所で行われているプログラムをその一例として紹介する.

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第4章 管理・治療・予防
経過・予後

雨宮 直子   九州大学大学院医学研究院心身医学
瀧井 正人   九州大学病院心療内科 講師
久保 千春   九州大学大学院医学研究院心身医学 教授

要旨
 摂食障害の経過や予後の十分な検討がなされてきたとは言えないが,これまでに,経過中の死亡は神経性食思不振症(AN)の方が神経性過食症(BN)よりも多く,AN,BNのいずれも予後調査の結果は概して回復50%,改善30%,摂食障害20% と報告されている.今後,標準的な評価指標がないことなどの問題点を解決し,経過と予後についてさらに検討が進められることが望まれる.

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第4章 管理・治療・予防
学校保健

西園マーハ文   東京都精神医学総合研究所児童思春期プロジェクト プロジェクトリーダー

要旨
 摂食障害の予防や治療において,学校は重要な場である.ダイエットの弊害を説くことにより,摂食障害の発生を予防(1次予防)できるのではないかという期待も大きいが,現実には1次予防は困難であり,早期発見,早期治療(2次予防)が重要となる.早期に発見された生徒には,プライマリケアの充実が必要である.すでに症状が強い生徒については,医療機関での治療方針を本人が理解し,学校生活と連携していくことが重要である.

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第4章 管理・治療・予防
自助グループ・家族の会

生野 照子   神戸女学院大学人間科学部 教授

要旨
 摂食障害の自助グループや家族の会が各地で作られるようになっている.こうした自助グループやサポートグループは,体験者同士の交流を介して当事者をサポートし,治療的にも意義ある成果を収めることができる.しかし,本人が参加する際には心身の状態を考慮して,慎重に選択する必要もある.家族会は情報交換の有用な場となっている.

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第5章 ガイドライン
摂食障害プライマリケアのための診断治療ガイドラインの試み

石川 俊男   国立精神・神経センター国府台病院心療内科

要旨
 摂食障害の早期発見,早期治療を実現するには,最初に出会うプライマリケアの役割は非常に大きい.そこでの診断の遅れや誤った治療は,その後の病態に大きな影響を与える.特に肥満恐怖への配慮は非常に重要である.ここではプライマリケアでできる摂食障害の診断と治療について,特に専門医に渡すまでにできる診療のあり方について,フローチャートの作成を試みた.

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